グウィン神話と英雄ザラマン

呪術王ザラマン

ダークソウル内で言及されるとある呪術師がいる。彼の名前はザラマン / Salaman。イザリスのクラーナの弟子だ。実像のよく分からない人物であるが、筆者は2つの理由から彼に強い関心を抱いている。あまり関連性の無さそうなザラマンにまつわる情報が、見方によれば繋がるからだ。

では始めよう。


筆者がザラマンに興味を持っている理由その1。ザラマンが男性でありイザリスのクラーナの弟子であること。この時点で何かを察する読者も多そうだが、一応細かく説明していきたい。

クラーナ師匠がザラマンのことを「お前と同じくらい、できの悪いだった」と話しているため、ザラマンは男性である。そしてクラーナ師匠は言わずと知れた呪術の祖。呪術を扱う女性は伝統的に魔女と呼ばれてきた。ゆえにザラマンを魔女に師事した男性と呼ぶことができる。

そしてザラマンは呪術王と呼ばれ名高いようで、その様をして「英雄」とザラマンを表現することもできるかもしれない。魔女に師事した男性の英雄。その点だけを見れば、ザラマンはケルトの英雄クー・フーリンに類似するのだ


これが筆者がザラマンを気にする理由1つ目。2つ目の理由はザラマンの英名だ。


ザラマンの英名はSalamanである。詳細は自作wikiに譲るが、salamanという単語はフィンランド語salamの変化形だ。その意味は「lightning, bolt」(稲光、電光、稲妻、雷)

であるので「ザラマン / Salaman」の名前は「雷光」と解釈することができる

ダークソウル世界で「雷」と言えばグウィンである(ザラマンとsalamが繋がる確証はないが、本稿では繋がっているという仮定で話を進めたい)。「稲光」の名前を持つ呪術師と、雷を象徴とする戦神彼らに繋がりはあるのだろうか?

これが筆者がザラマンに関心を抱く理由2つ目である。




追加攻撃機能のある投げ槍

ザラマンとグウィン、そしてクー・フーリンについて思案していた時に筆者がふと思い出した情報がある。そう言えばケルト神話の魔槍ゲイ・ボルグの名前は「ギザギザの投擲物」、すなわち「稲妻」とも解されるとも言われている、と。

ゲイ・ボルグ(ガイ・ボルガ) / Gáe Bulg(Gáe Bulga)とはアイルランド神話に登場する槍だ(槍術であるという話もあるが)。逸話が多すぎて一体何なのか逆によく分からないアイテムではあるが「英雄クー・フーリンが彼の師匠である魔女スカサハから与えられたもの」という点は共通して語られている。

そしてゲイ・ボルグの特徴の1つが「一投で多数の傷を与える」というものだ。「クアルンゲの牛捕り」にてそれは言及されている。


“It entered a man’s body with a single wound, like a javelin, then opened into thirty barbs.”
「投げ槍のごとく一撃で人の体に入り込み、30の棘に開く。」


筆者には槍本体が分裂するのか榴弾のように破片をぶちまけるのかはたまた槍から棘が生えるのかは分からないが(参考書籍によれば多数の鉤によって致命的な深手を与えるものらしい)、ゲイ・ボルグという槍、もしくは槍術は一投で複数ヒットが可能なのだろう


筆者はそういう特徴を持ったダークソウル世界の槍術について1つ心当たりがある。読者の方々も見たことがあるはずだ。ダークソウル無印のオープニングで大王グウィンが古竜の大群に向かって力強く放り投げた一本の槍が、無数の槍を伴って古竜に降りかかる光景を


あれはまさしく「一投で多数の傷を与える」投擲槍術の使用風景ではなかったか?

そして雷の投擲槍は、ゲイ・ボルグ(ギザギザの投擲物)の表現として非常に適切なものではないだろうか?

何より、ゲイ・ボルグの使い手はクー・フーリンであると歌われているのではなかったか?


以上の思い付きを抱いたことで筆者はとある小さな発想を得た。グウィン神話の中にはクー・フーリンの伝説が混じっているのではないか?というものである。




魔女の弟子

そうなると気になってくるのは「グウィン神話に混ぜ込まれたクー・フーリンの伝説」の出処である。地球上の情報がそのまま組み込まれたのか、それともダークソウル世界に「クー・フーリンの役回り」を任された誰かの物語がグウィン神話に組み込まれたのか?

個人的には後者であると考えている。ザラマンがいるからだ。「稲光(ギザギザの投擲物)」とも解釈できる名前を持ち、大沼の魔女に師事した英雄ザラマンが。ザラマンこそ、ダークソウル世界における「クー・フーリン」の役を演じた(=ロールプレイした)人物ではないかと筆者は疑っている。


グウィン神話にザラマンの物語が取り入れられたことでグウィンとザラマンは同一視されたのかもしれないし、ザラマン英雄譚が徐々にグウィン神話へと祀り上げられたのかもしれない。どちらも神話界隈ではよくある話なので、2つの可能性は同程度である。

しかし「ザラマン」と「グウィン」が同一存在であると仮定することで別の謎が紐解けるのがどうにも興味深い。次の段落ではそれについての話をしよう。


*もしザラマンがクー・フーリン役であったとするなら、そしてダークソウル世界におけるゲイ・ボルグが雷光の槍術であると仮定するなら、それはクラーナからザラマンに教えられたものであるのかもしれない。グウィンが雷の槍術を使うのは、彼の物語にザラマンの逸話が混ぜられたためである……という可能性が量子1つ分くらいはないだろうか、と筆者は妄想を逞しくした。さすがにこれは行き過ぎた発想だと自分でも思いつつ。




ザラマンが「グウィン」である可能性について

この段落では「ザラマン」と「グウィン」が(地球における伝統的呪術観において)同一存在である可能性について話をしていく。しかしそれにあたって読者の方々に読んでおいてもらわねば困る記事がある。

それは金呼静さんによる金枝篇を踏まえたダークソウル読解記事だ。この段落の話は「読者は金呼静さんの記事にしっかり目を通した」という前提で書き進めていくので、金呼静さんの記事を読んでいないと訳が分からないことになると思う。それを抜きにしても非常に興味深い記事なのでとにかく読んでほしい。リンクは以下の通り。


ダークソウルと金枝|金呼静|note

ダークソウルと金枝 番外編|金呼静|note


読んで頂けただろうか? 読者方は金呼静さんの記事を読んで頂いたものと信じ、筆を進めていこうと思う。


では本題に入ろう。金呼静さんの記事の情報から考えるに、火継ぎの儀式によって「グウィン」という存在は殺されては生まれ変わり連綿と在り続けているものと考えられる。誰であれ「グウィン」を殺せた者は次の「グウィン」になるのだ。

であるので、最終的に「グウィン」を殺し「グウィン」を受け継いだ初代ダークソウルの主人公は「グウィン」になったと言える。火継ぎの儀式の完遂によってDS1主人公=「グウィン」となったのだと。


*余談だが「グウィン」を殺した人物が誰であれその人は「グウィン」となる、というのはこれはこれで不死の呪い(のろい / まじない)だなと思う。終わりのない転生、殺害と被殺害を繰り返し続けるしかない状態。仏教的には等活地獄に墜ちたような有様だ。解脱したくなる。


ここで思い出してもらいたいのが、ダークソウル3に登場する貴重品「クラーナの呪術書」フレーバーテキストだ。テキストはこう語る。「イザリスの魔女の生き残りであったクラーナは あるとき一人の、人間の弟子を得たという そして後、新たな弟子を取ることはなかったと」。これぞ有名な「いや弟子は2人いましたよね問題」の出題である。クラーナの弟子は2人いたはずだ、ザラマンとDS1主人公の2人が、と。


筆者はこの問題の1つの解法として『ザラマン=「グウィン」=DS1主人公』という可能性を提示したい。


ダークソウル世界におけるクー・フーリン役たるザラマンは、確かに大沼の魔女クラーナに師事していた。彼がグウィンの正体であるならば(つまりザラマン=グウィンならば)火継ぎによって「グウィン」となったDS1主人公はザラマンと結果的に同一存在になったと言える。


あるいはザラマンが不死となり火継ぎの儀式を完遂して「グウィン」を引き継いでいたとしたら。その場合ザラマン=「グウィン」であり、彼の後に火継ぎを成功させたDS1主人公もやはり同じく「グウィン」だ。ザラマンとDS1主人公は同じ「グウィン」という存在になったので同一存在だと言えよう。


もしくはザラマンは火継ぎと直接関係していないがその逸話がグウィン神話として習合していた場合。その場合はDS1主人公の活動以前にザラマン⊂「グウィン」が成立しておりそれからクラーナに師事したDS1主人公が「グウィン」に成るため、後の時代から見ればDS1主人公は「(ザラマンの伝説を含んだ)グウィン」と同一存在である。


他にも多数の可能性があるだろう『ザラマン=「グウィン」=DS1主人公』論だが、数学に向いていない筆者の頭が知恵熱を出し始めたので例を挙げるのはここまでにしたい。



兎も角、未来から過去を振り返る視点でザラマンとDS1主人公を見れば、結局のところ全員が「グウィン」である。多分。イザリスのクラーナが弟子にしたのはどちらも『いずれ「グウィン」になる』人間であり、地球の伝統的呪術観から言えばどちらも『同じ「グウィン」という存在』だ。

等しく「グウィン」になったザラマンとDS1主人公は、神話の上では同じ「グウィン」という存在として語られるだろう。細部は各物語ごとに違うだろうが、大枠としての『「グウィン」は呪術の祖クラーナに師事した』というプロットは同じままに。

神話とは、大体そんな物語の集合体である。







情報元
大火球 – DARK SOULS ダークソウル攻略Wiki
黒金糸のフード – DARK SOULS\ ダークソウル攻略Wiki
DARK SOULSⅢ/貴重品 _ クラーナの呪術書 – BLADE & GRENADE
Great Fireball | Dark Souls Wiki | Fandom
クー・フーリン – Wikipedia
スカアハ – Wikipedia
八大地獄 – Wikipedia
Gáe Bulg – Wikipedia
Táin Bó Cúailnge – Wikipedia
魔女とは – コトバンク
Encyclopedia of the Celts : Gaban – Gyneth
Encyclopedia of Mythological Objects – Theresa Bane – Google ブックス
ROSS / ゲイボルグ (Gae Bolg)
【番外編】DARK SOULS REMASTERED – 番外編④ NPCイベント6・呪術師ラレンティウス、イザリスのクラーナ&呪術関連 – YouTube
ケルト事典/ベルンハルト・マイヤー/著 鶴岡真弓/監修 平島直一郎/訳 本・コミック : オンライン書店e-hon


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